走馬灯の夢 
服部 剛

塀の上で危なっかしく
好奇心の瞳で這っていた 
三才の私 

新しい家の
まっさらな床を両手で撫でた 
五才の私 

学校という未知の国へ 
鼓動を、高鳴らせていた 
7才の私 

教室で手を繋ぐ輪の中で 
ひとつの灯りとなっていた 
十二才の私 


愛の手紙は破れる、と知った 
十七才の私 

現実の壁の前に、膝を落とした 
二十六才の私 


三十五才の私は、今 
誰一人いない、十字路に立ち 
じっと、明日の風向きを、睨んでいる。 

五十才の私は、やがて 
肩に喰い込む、十字架の重さを知り 

七十才の私は、いつか 
かけがえのない人々の面影を両手に包む・・・ 


晴れた日の神社の鳥居の下 
両親の間の日なたに立った、あの日の少年。 

星降る夜の公園のベンチで 
愛するひとと肩を並べた、あの日の青年。 

桜舞い散る街路樹の、隙間の空に 
旅立つ友を見送りながら 
悔しさに拳を握った、あの日から・・・ 

ひとすじの道はいつか光の矢となり 
終着地の扉へ、吸い込まれる。 


走馬灯の夢々の浮かぶ 
宇宙の銀河に、漂いながら 
〇歳の魂に孵化する、その日迄。 








自由詩 走馬灯の夢  Copyright 服部 剛 2010-03-09 21:24:06
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