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はるやま
朝 目覚めると、僕の身体の上には一つの箱が置かれていた。
それは薄汚れていて、大きい。降るとカラカラと音を立てた。
「奇怪だ、目覚めたばかりの僕にこんなものが用意されているなんて。
奇怪だ、この部屋には僕しかいないはずなのに」
箱の四辺を指でなぞる。そうすると、不思議なことに箱には暖かみがあり、時折呼吸をしているようだった。
「何だい、お前はまるで生きているようだね」
ベッドから起きあがり、食用棚から牛乳を出す。すると箱は、後ろを“ハコハコ”とついてきた。
「ふうん、やあお前は可愛いね」
僕は牛乳を皿に注いでやる。
「飲むかい?」
箱は“ブルルッ”と震えて、それを拒絶した。
僕はそれで、この箱は(今でこそ天涯孤独の僕の身だが、去年まで生存していた僕の父に)似ているなあと思った。
「父さんも牛乳が飲めなかったんだよ」
「大人なのにね」
僕は父が死んでから、毎日の時間を持て余していた。
父は、去年のクリスマスに張り切ってサンタを演じたあまりに、誤って暖炉で薫製になって死んだ。
一つの出口も無いこの家に来客があることは無かったし、本棚にある本は全て読んでしまっていた。
「やあ、箱。だから君は久しぶりに僕にとっての他人さ」
箱は黙って僕の話を聞いている。
「箱、君はどこから来たんだろうね?誰が用意してくれたのだろうね?」
半日経った。(といってもこれは僕の勘なのだが)
手持ちぶさたになり、僕は箱を開けてみることにした。中身を開けてしまえば、この箱は死ぬかもしれないと思ったが、箱は特に騒ぐことも無い様なので良いかと思った。
箱は少し、“ギチギチ”と言ったが、割とすぐに開いた。
僕はそうっと箱の中を見た。
そこには縮こまり焦げた小指の骨が一つと、煤が入っている。
「ああ・・」
「何だ」
僕は煤を払う。少なからずそれは“小化”だった。きっと去年から暖炉の奥に引っかかっていた箱が、春の気温で溶け出し落ちてきたのだ。
つまりそれは誰かが来たのではなく、初めから有った物なのだ。それは言い換えればゴミであったし、父であった。
牛乳が飲めないのも納得だった。
「父さん、だけどそんな格好じゃ何もできやしないね。ボードゲームも、チェスも、トランプだって・・」
僕はそう言いながら、箱を膝に乗せた。(僕はそのどの遊びも、好きではなかった)
その数分後には箱はついに息絶えて、冷たいものになった。
父が飲み残したものを、僕は一人でどうにかしようとしている。
季節は春を迎えていた。いや、ただ“そうであるはずだ”という勘が、僕の頭をゆっくりと巡っていた。