同心円状のバルコニー
中原 那由多

止まない雨だった

優しいままでいられるほど嘘つきではないから
まだあまり汚れていない窓ガラスに向かって
冷たい視線を送り込む
反射した感情の行方を知っているくせに
しばらくそこに立ち止まったまま
耳障りの良い雑音を聞いている


『三月はライオンのようにやって来て、子羊のように去ってゆく』

そんな例文が英和辞典に載っていて
むしろ逆かもしれないと感じていた
もう、シャーペンを握らなくていいと知って
眠りこけている今この一時は
以前と大して変わらないが
少しだけ、すっきりしている気がする


回る回る水溜まりの上
靴に入るのは泥水だけでよかったのに、と
繰り返し繰り返し言ったところで
また明日も笑えない茶番劇

気だるく気だるく科白を吐き出して
控え目な八つ当たりに走り
丸く丸く収まらない衝動は結局
泡になって四散した


ほんのりと甘い匂いがする壁紙の傍
動かない空気を誤魔化したくて
橙色の小さな明かりにわざわざ頼った
久しぶりにラジオをつけたからには
どこかで繋がっていたいから
呟きに鍵をかけるようにして
身体を右に傾けている




自由詩 同心円状のバルコニー Copyright 中原 那由多 2010-03-09 10:17:39
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