生まれる場所
いっと
水辺で老人が少年と釣りをしている、のは創造ではない。記憶である。誰の頭も、何も作れない。・・・・隣人のしたり顔を見ていると、腹立たしい。お前の頭の中には何もないよ、からっぽだよ、と、教え、かける。のをすんでのところで踏みとどまる。おせっかいは野暮だ。隣人は何も知らずに死んでいけばいい。
(したり顔をしているのは私・・・?)
「キーボードを叩いた」のはいつ? 昨日? するとこのインクの染みはいつのもの? 誰が、いつ、何を、どのように、考えた? 今の今に今を閉じ込める作業。その不可能さに、途方の無さに、思わず涙が出てくる。
・・・集める、記憶を・・・・それを並べて・・・新しい物語を作る・・・・・・・・・・・・・思考が疎ましい、思考のための言葉が疎ましい、思考のための言葉のための、そのもっと根本の、ずっとずっと根本の、その形も色も、あるのかどうかさえあやふやな、それ・・・が・・・・・・・・・疎ましい。
ありとあらゆる記憶が集められたここは、海。近くに浮かぶものにそっと手を触れる。
(覚えていないとは言わせない
それは確かに、いつか私を救ってくれたもの。そしてこれからも私を救い続けてくれるもの。
両手で優しく包む
言葉が紡がれる
紙もペンもいらない
揺るぎない思いさえあればいい
物語が生まれる