ウミネコの部屋
月乃助
眠っているあなたに ささやきかける
海峡の海鳴りがきっと
霧のような不確かな、消え入りそうな言葉を運んでくる
小さな螺旋の都に吸い込まれるように
淵をなくした深淵へと
言葉などにしたこともない想いを、
消し去りながら
美しい季節から 剥がし取った
寝顔の稜線は、やさしく姿を変えぬまま
僕を忘れさせたりしない、そのために僕はここにいる
二人寄り添う支点から 言葉は生まれ静かに語られる
海を過ぎる貨物船のゆっくりとした動きほどに
光りの線をなぞりながら どこまでも
触れればやってくる愉楽に
今はただ 髪を少しばかりかき上げて
眠る人は、ただ、深遠をさまよっている
細いまつげの先を震わせて、誰の夢をみているのですか
抱き寄せては すぐに声をもらすその一点をなぞってみたくなる
甘い陶酔を覚醒させることだってできるはず
そばにいて良いのですね
明日を確かめる言葉をさがしながら、
きまってそれは、午後の陽の中を漂ったりしているけれど
今を想いとどめる残酷に あなたの寝顔を見つめなおす
いやでも思い出の中に刻み込まれてしまうから
時が走りゆこうと それに乗り遅れはしない
部屋の中にする口紅水仙の芳香に、少しばかりむせながら
明かりを分け広げるそれに、身を任せるように眠るあなたへ
僕は香水を知らずにいた、それがあなたの香りだと
悦楽に落ちていく すべり入るその中で、
見つけ出したそれを言葉に代えて
あなたの知らぬ間に 口にする
ウミネコの狡猾さを真似ながら、貧欲を隠しては横たわり、
迷宮を出られないあなたの 細い裸の背を抱きしめる
いつものように外は、冷たい光りで満たされているのに
その明るさに 少しも躊躇わずに
窓に映る二人の過ごした時
潮の香りのする思い出
失うものが 多すぎる午後