保護
真島正人




まるで

宴のような
色あせた果実

慕情だけが

途切れがちに
遠くから叫ぶ



なまじ
与えられた喜びと苦痛に

絡められて
何も出来ない

さっきグラスに入れた氷は
溶けてしまって

もう音を立ず

堆積物のような
かつての愛は

吹き溜まり、

それだけで
ひとつの形を織り成している



夜が更けない日々

集約の
お手本のような

さげすまれた闇が

変形して
建物を作る

世の理を
否定した
長い廊下

僕はそこに囚われて

どこへも行けない



耳を澄ませると

ピアノが鳴っている

長く骨ばったソナタ

僕はそんなソナタを

愛した覚えは無いが

それにしても
なんて

控えめで
怯えたような音なのだろう

こんな
怯えた音が

やがて大きな声になる

そしてそれが

世の中を

揺るがしてしまう



回路図を
いくつも広げ

渚が
凪いでいることに安堵し

羽を広げ
歌をうたった

僕は
数回も
ひな鳥を繰り返し

そのたびごとに
親鳥を
犯した



情けないこと、
薄ら寒いことが

施設のような強制力を纏って

僕の成長過程を
保護した

置き去りにされた恐怖

貼り付けられ

見世物になったそれが

色あせるのは
早い



色あせてしまったものが
蘇る

蘇ったそれは

まるで
言葉だった

言葉で伝えようとすると
いつも伝わらない物事が

一度解体され
そしてもう一度

言葉になったとたん

なんてことだろう

饒舌に

そして
素晴らしい浸透率を
伴い

歌いだすのだ



言葉から
体へ

寒色から
暖色へと

美術科の
課題のように

色を塗り

心を
硬く
保護してゆく

胸から下は
硬直化し

胸から上は
軟体動物のように
柔らかく
さびしい

僕は愛に飢え

飢えて、飢えて
たまらず

幾度もキスを迫った

そのたびごとに

何も無かった日々が

更新され
鉄の杖で
潰されていく



煉られ
ひとつになった
生き物たち

いくつもの
どろどろに溶け
混じりあった形が

『私』

叱咤する
日は
近い


自由詩 保護 Copyright 真島正人 2010-03-08 04:26:31
notebook Home