保護
真島正人
1
まるで
宴のような
色あせた果実
慕情だけが
途切れがちに
遠くから叫ぶ
2
なまじ
与えられた喜びと苦痛に
絡められて
何も出来ない
さっきグラスに入れた氷は
溶けてしまって
もう音を立ず
堆積物のような
かつての愛は
吹き溜まり、
それだけで
ひとつの形を織り成している
3
夜が更けない日々
集約の
お手本のような
さげすまれた闇が
変形して
建物を作る
世の理を
否定した
長い廊下
僕はそこに囚われて
どこへも行けない
4
耳を澄ませると
ピアノが鳴っている
長く骨ばったソナタ
僕はそんなソナタを
愛した覚えは無いが
それにしても
なんて
控えめで
怯えたような音なのだろう
こんな
怯えた音が
やがて大きな声になる
そしてそれが
世の中を
揺るがしてしまう
5
回路図を
いくつも広げ
渚が
凪いでいることに安堵し
羽を広げ
歌をうたった
僕は
数回も
ひな鳥を繰り返し
そのたびごとに
親鳥を
犯した
6
情けないこと、
薄ら寒いことが
施設のような強制力を纏って
僕の成長過程を
保護した
置き去りにされた恐怖
貼り付けられ
見世物になったそれが
色あせるのは
早い
7
色あせてしまったものが
蘇る
蘇ったそれは
まるで
言葉だった
言葉で伝えようとすると
いつも伝わらない物事が
一度解体され
そしてもう一度
言葉になったとたん
なんてことだろう
饒舌に
そして
素晴らしい浸透率を
伴い
歌いだすのだ
8
言葉から
体へ
寒色から
暖色へと
美術科の
課題のように
色を塗り
心を
硬く
保護してゆく
胸から下は
硬直化し
胸から上は
軟体動物のように
柔らかく
さびしい
僕は愛に飢え
飢えて、飢えて
たまらず
幾度もキスを迫った
そのたびごとに
何も無かった日々が
更新され
鉄の杖で
潰されていく
9
煉られ
ひとつになった
生き物たち
いくつもの
どろどろに溶け
混じりあった形が
『私』
を
叱咤する
日は
近い