ぼた雪
ルナ

月の光がやさしく降りそそぐ夜明け前
星のカケラのように
ぼた雪ふたつ みっつ
急な斜面の屋根の上
ひとつ転がり
ふたつ弾んで
みっつ溶けて泡になる

月の光に吸い込まれ
色を音を時さえも
みんな淡い蒼へとかわる

屋根から落ちたぼた雪
うさぎにかわり
雪原の中を駆けていく
その姿
知らず知らず
目で追いかけて
手を差し伸べて

伸ばした手に触れたのは
泡になった雪だけで
その気持ちもわからないまま
伝わらないまま
指先濡れて
心も濡れて

ほどなく月は沈み
日は昇り
暦は移ろい
色もかわる

限られた時と空間
日々忙しくかわる日常との中で
限りなく想いは募り
そして気持ちはかわらず
それが何故かもわからず

私は今でも手を伸ばしているよ
あの時
うさぎに伸ばした手のように
何にも触れず
何もわからず
それでも
手を伸ばし続けてるよ

それはただ
あなたに少しでいいから
近づきたい
ただそれだけの事
近づいたのかどうかもわからないまま
それでもいいから

今日もまた
季節外れのぼた雪
ひとつ ふたつ
ふたつ みっつ

私に降ればいいのに
私に届けばいいのに
そう思うけど
急な斜面の屋根の上
跳んで弾んで溶けるから
私の手には届かない

私はただそれを見ているよ
それが今の私にできる唯一の事ならば
それをやめてはいけないと思うから
目をそらしてはいけないと思うから
だから私は見続ける

あなたの生きた証を
あなたの淡くはかない美しさを
私は心に刻み付けます


自由詩 ぼた雪 Copyright ルナ 2010-03-08 04:02:23
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