猫の目
クローバー
少年は、チョークを手に持っている
軽石かもしれない
壁に描くのはいつも、目。
みゃぁ、と鳴く、猫の、みゃぁ、と鳴かない部分。
少年は、いつも日が暮れる前に帰る
煉瓦の、壁には、破れかかったポスターがある。
描かれているのは
白くふわふわとした衣装に身を包んだ少女
少年は、舞台に立つ少女に微笑む
ポスターに恋をしているのかもしれない。
壁に、いつものように猫の目を描いている
毎日描いていたので、少年にも匹数はわからないようだ。
ただ、雨で命を落とした数よりはずっと少ない。
ある日、ポスターが無くなっていた。
少年は、ポスターがあったところにも目を描いた。
書き直した跡が、たくさん残っていた。
猫ではない目を描いたのは、はじめてだったのだろう。
もうすぐ日が暮れる。
猫は、鳴かない。
壁の向こうから少女は少年を見つめている。