ガラス底のボート
楽恵

君がオールを漕ぐ
水色の湖にガラス底のボート。
ゆらゆらと
水面に浮かぶ午後の光が
君を映す柔らかな鏡になる。

水中にはいくつも
小さな白い花
手を伸ばして拾いあげる
頬と頬を寄せ合って
かすかな香りを嗅いだあと
君が私の髪に挿す。
丸い水滴が耳たぶをかすめて粒となり
もう一度、湖面に落ちる。

ボートを避けるように
水底を赤い魚が泳ぐ
水鳥の遠い羽ばたき

陽をあつめて温かなガラス底に
まっすぐ身を横たえて
くちびるだけ動かして
君の名前を呼んでみる
声は出さずに
君が笑ったような顔になる。

(好きだよ、と言ってみて)

君と一緒にいると
世界がまぼろしなのか夢なのか
忘れてしまう
ゆらゆらと
君と水中の花を摘む
春の日曜日。




自由詩 ガラス底のボート Copyright 楽恵 2010-03-07 19:40:56
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