40℃以下の水で手洗いして下さい
国産和風モモンガ

ちょっとした長さのフレーズがひとつ思い浮かんだ。
それだけならこれまでにも何度かあったけど、
いつもと違って放っておいてもしばらく頭から消えずに、
いつの間にかその次の一節までぼんやり輪郭をつくり始めていて、
もう少し固まってくれば素手で掴んでも
千切れたり消失したりしなさそうだった。

それからも伸びたり縮んだりしながら形が整っていった。
初めは“――っぽい感じ”だったのが“――な具合”を経ると“――的なもの”くらいまでにはなって、いよいよ手を加ようとなった時にはもう“――の方向で”というほどはっきりしてきていた。
できあがってみるともう当初のフレーズにはそれほどの魅力はなくなっていたし、
所々のつぎはぎも目立たないとは言えなくて、
全体としても多少こじんまりまとまってしまった。

夢中で頭のなかの曖昧な形の固まりをいじくっていた。
ちょっとくらいずさんな手つきになっても、動じずに。

といってもまったく無関心だったわけではなくて、
ひと通り片が付いたら手を加えるべきところとして記憶はしていた。
それでじっさいひと仕事終えてから振り返ってみると、
修復するべきだと思っていたところは意外とサマになっている。
付近で調子乗ってはしゃいでたとこのほうが逆に痛々しい有様になっていたりして。
びびって何も手に付かなくなるよりはだいぶマシだからという理由で、
興奮剤代わりに、気持ちがうぬぼれに傾くように自己催眠するんだけど、
うぬぼれの渦中で気を抜くとまじで目も当てられなくなるようだ。

せっかく出だしですべらなかったのに、途中、気が散ったり、気が滅入ってたり。
飽きるのはかまわないし推奨だけど、飽きてる自分を騙し騙ししながら
強引に先へ進もうとしたり、すると、もう、ダメだ。
気分の上がり下がりがただでさえ激しいから、それを一定に一本調子に保つのが、
正直、しんどい。

てかもう、そっちのほうが神経を使うくらいだ。

うぬぼれすぎないように、臆病すぎないように、
きわどい気分の平衡を崩さないように注意しながら、そっと、掬い上げる。
で、それが、

こぼれ落ちる。
こぼれ落ちる。
こぼれ落ちる。

それが詩になる。それでも詩になる。それしか詩にはならない。

しかたがないから、40℃以下の水で手洗いして下さい。


自由詩 40℃以下の水で手洗いして下さい Copyright 国産和風モモンガ 2010-03-07 00:48:31
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