夜深し(副題:コメトラ)
やや
初期設定を間違えたと嘆く喜劇
闇雲に走る競走馬は、悲劇…
*
真夜中に黙って座る部屋の中では
多角的な視点など偽りです
沈黙と同じくらい聞こえてくる喧騒の
どちらが本物かは分からない
怖くて歌を歌っても
掠れる声を押さえ塞ぐ
自分を取り囲む見えない怒号の正体
それに名前など付けたくなくて
嘘。
本心は付けたくて付けたくて付けたくて付けたくて
名付け親は探さないけれど
心の中では名前を決めてある
でも一生、呼ばない
知った事実は全て
後付のアイデンティティになって
偽りの過去を彩っていく
どう足掻いたってここには過去しかないという悲劇は
周りから見るとただの喜劇
けれど、夜に喜劇は存在しないの
夜明けの窓の外
地面から朝が染み出している
鳥が喜劇を呼んでいる
薄暗い、薄明かりの屋上
瓶の蓋を開けようとする女の子
力余って瓶を落として
割れ目から空が零れ出る
撒き散らした絵の具のような重い重い重い重い、青
出来れば空になりたかった
本当は全部混ぜて光になりたかったけど
青だって、赤だって、良かった
美しいと感じるものなら何でも
空色の水溜りが揺れる
毒だ、きっと
女の子が水に触れて、悲鳴をあげる
幼いという事、喜劇
女であるという事、悲劇
生きるという悲劇
生きるという喜劇
少女は日の出より先に空に溶け出す
競走馬も喧騒も怒号も鳥も水溜りも何もかもが還元し
それでも遊びは終わらない