桜前線
nonya
小さな後悔を
ひとつずつ折りたたみながら
冷たい雨の中を歩く
しつこい雨音を
ことごとく無視しながら
答えをクシャクシャに丸める
痩せた街路樹は
桜並木になろうとして
つれない空模様を見守っている
押し黙った蕾は
句読点を開こうとして
読み飽きた梢で戦慄いている
確かすぎる目盛りの上で
躊躇う季節の猫背を
時間の乾いた手は
容赦なく押してしまうから
もうすぐ
僕も咲かなければならない
今年も
必ず咲かなければならない
少しずつ重さを増す
冬枯れの記憶を背負ったまま
新たな乱痴気騒ぎを
始めなければならない
胸の奥の方から
せり上がろうとする桜前線を
煩わしく思いながら
南風のお節介な絵筆に
むりやり塗り潰されることを
密かに望んだ