酔歌 - 2 / ****'04
小野 一縷
ああ・・・ きみと
ぼくの絆が 常世にあることを
罌粟が流す 白い血 その血判として ここに記そう
そう
自我を 神秘化学的に汚辱しよう
そして溢れて落ちる 自我の原子
その一粒の感覚・真新しい記憶を こうして連ねてゆこう
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純銀の槍が雨と降り注ぐ
その遥か高みに琥珀色の放射線を眼から投げかける天使
おお・・・ こんな・・・ まるで
子供等が蟻の列を 朗らかに確実に踏み潰す感覚で
なんて手際良く ぼくの正気を心地好く 無邪気に弄ぶのだろう
・・・きみは
この銀の槍は なんて冷たく甘いのだろう
血潮 その意思が黎明と冴え 快活に冷気を帯びてゆく
貫かれた 胸は冷血 藍色に走る 静脈
おお
今 「これ」こそ 快楽と呼ぶに恥じない
満ちてゆけ もっと 脳天から爪先へ
踵から延髄へ 血管を 往来する 天使が注いだ 苦い華汁
さあ
甘く熟して 柔和な倦みに抱かれろ
己の怠惰に 猫のように賢く甘えろ
すっかり自白していいんだ 隠蔽された 恥じらいと欲情を
涙を流して 白痴のように 無垢になれ
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おお
軽金属の天使 彼は詩人
羽ばたき その金切り声の羽音
罌粟の鱗粉 雪の揺らぎと儚さを真似て
有害な快楽が 人畜無害な詩句を陶酔させる
彼の詩句 行間 呟きから
催淫作用が 性器のように 赤裸々と 露出している
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ああ・・・ きみ
きみがぼくに 教えてくれた 約束の秘め事
この酩酊の美味は 如何なる知性にも代え難い
忌々しい寿命は さっさと先払いする
欲望 諦念 無意識の三角均衡が
ああ
正確な実在としての三点
完璧な狡猾 生命機能 正常な誤作動
既に完成されていた 角砂糖のバベルの塔が 崩れてゆく
崩壊 放出 余韻の快感が
完璧な逆三角形の経路として現れる
六芒星 呪われの星
ああ
この経路を 巡るのは ぼくの幼い心 童心
にこやかに 微笑んでいる ぼくは 今
胸に黄金のバッヂを光らせる 賎民の子だ
(・・・父さんは河で自殺)
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ああ
軽快に導く為に 辛い顔をしなくても済むように
ぼくを こんな矮小な存在にしたのだね
ほら
切傷と火傷と薬疹にまみれた両腕
ああ か細い精神の現れだ これは
さあ
掴んでおくれ 病んだ腕を そして もう一段
この萎え脚で ぼくに階段を昇らせておくれ
ほら また
快楽の階段の段数を 惨めな正気が
血眼になって 慌てながら 数えてやがる 可笑しいったらない
実際のところ 何やら奥深い構成を持つらしい このコントは
いつだって新鮮な感覚で 楽しめる
色々な表情が 舞い 歌う この脊髄の内側に
さあ
もっと もっと高く もっと!!
引き上げてくれ 上昇させてくれ
おお・・・
石の薔薇が咲き誇り 天国の扉を その砂の棘でぶち破る
眉間の奥で 光が弾けた 散光 粒子 ゼロに侵入
さあ
見ろ そして 感じろ
白金の太陽の御遣い
その銃剣 グングニルが 脇腹に突き刺さる
髑髏の丘で 精神を 天界へと吸い上げる
生命を 冥界へと突き落とす
あとは 引き金を引くだけ
とっくに 撃鉄は起こしてある
復活は 一度じゃない
だから 安心していいんだ
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ああ
この 胸の奥から零れ渡る セイレンの美鳴に
鼓膜が血の涙を流して 歓喜の鳴動 悶えている
涙が瞳孔の黒い純度を 一層 不運な明星のように輝かせる
おお
暗黒の その奥に
似非哲学者・似非宗教家・似非表現者が嫌悪する
薬学的に導き出された真理がある
呪術師は太古から 化学的啓蒙を智慧としていた
これは宗教以前 神秘主義的思惟に結ばれる
音楽家が画家が詩人が その事実を明らかにしてきた
そして この詩も
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ああ
夜は月に煌々と蒼く照らされ
ワインは赤々と熟れて甘くなる
夢想は滾々と瞼の裏に湧き上がる
今宵こそ 祝福すべき 約束された夜
この詩は ぼくの酔いどれ船
この詩は きみへの捧げ物
この詩は きみとぼくの恋歌
おお 今こそ
右手のクランクが
硝子のピストンを シリンダの脳天まで突き上げる時
優雅に ぼくの体内に 散った火花が 熱く飲まれる
血液の圧縮 血液の沸点 血液の発火
血流が 血潮が 血脈が 狂おしく 騒ぐ! 吠える!
この狂想を 無言の祈りと 盲いた舞で 守護する
きみ
ぼくの天使 mon ange
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