くじら星人の逆襲
メチターチェリ

沖ノ島二百海里沖での戦闘は熾烈を極めた
連合側が新たに派兵した三人のくじら星人は
わが軍の誇る無敵母船
第七日新丸の砲弾を受けてさえ
倒れることを知らず
さらにはわれらの冷凍工船五隻と
運搬船六隻を飲み込み
底なしの胃袋を見せつけた

頼みの綱であるカンガルー部隊は
海の上では木偶の坊もいいところで
われらに格好つけてみせた
シャドーボクシングのポーズは
敵前逃亡へ向けた
壮大なフリだったのだと云わぬばかりに
今は甲板の隅に縮こまって震えている

まったくこんな事であるならば
いっそコアラ星人と同盟を組み
ユーカリの葉を媒体にした毒物攻撃で
一発逆転を狙ったほうがまだしもであったのだ

しかしそれでも

われらの日新丸はくじら星人の一人を討ち取った
クジラの亡霊に取りつかれた
復讐の修羅 羽生船長の銛の一突きによって

瞬間われらの漂う海面は金色の輝きに染まる
それが刺殺によってもたらされた
断末魔のほとばしりだと気づくのに
われわれにはあと四百光年分のへだたりの
生理学的進化が必要だった

そして次に起こったことを
系統的に語れる者は
この船にはいない

結局のところわれわれは
何も分かっていなかったのだ
敵の生態も味方の生態も
自分たちの行動理念さえも

漂う艦隊のもくずの中で
くじら星人の曳く白波のしぶきを浴びながら
われわれは帝国の運命を悟った


自由詩 くじら星人の逆襲 Copyright メチターチェリ 2010-03-05 08:29:15
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