蛇つかい来たる
吉岡ペペロ
所長最後の日、社長がカタヤマとともに営業所にやって来た
社長はユキオの髪型を見て
おっ、こころを入れ替えてがんばってるんだなあ、
と言って顔をほころばせた
社長と所長とユキオで主要なお客様を回った
入社一年にも満たないユキオでもこの三日間の引き継ぎで所長がどんな営業をしていたかは分かっていた
カタヤマはその日営業所で顧客台帳何年か分を一気読みしていたようだった
たまにツジさんに質問しては台帳を繰りパソコンになにやら打ち込んでいたそうだ
会社の販売管理システムはまだパソコン化されていなかった
売掛金の未回収分だけがオフコンで管理されていた
顧客台帳は紙ベースのものだった
カタヤマはなんの感想を言うこともなく夕方社長と帰っていった
送別会があると聞いていたが社長に急用ができたとのことだった
多分所長が急に用事が出来た、とか言って送別会が出来なくなったのだろう
所長がユキオにがんばれよ、と声を掛けた
はい、
ツジさんと力を合わせてな、
はい、
上田くん、ツジさん、これでさよならだけど、所長は顔を真っ赤にさせて泣いていた
営業所のまえでユキオとツジさんが所長を見送った
所長の車が角を曲がるのを見つめながらこの春の埃っぽい夕方の匂いに、ユキオは取り込まれたくないと思っていた
上田さん、がんばろう、
もちろんがんばるよ、半年で売上倍だからな、
三倍にしましょうよ、
ツジさんの色白な顔が白い蛇のように見えてユキオはいるはずもない蛇つかいをあたりに探した