蛇つかいうごく
吉岡ペペロ
電車ではなく車で高松に向かった
ユキオは営業所の2階に暮らすことになり営業車を私用車として使うことが許可され実家に帰る際の高速代も会社が持ってくれるとのことだった
営業所の所長はカタヤマがはじめて会社に来た日の会議でカタヤマとやり合い辞めることになっていた
本社で引き継ぎを済ませ3月の2週目からユキオは高松営業所に赴任した
事務所には二年目の女の子ツジさんとユキオとあさってが最後の所長の3人
朝礼もなにもないまま促されるまま所長の営業車に乗り込み引き継ぎが始まった
なんの会話もないまま一日が終わり所長は5時に帰っていった
ツジさんがユキオに話し掛けた
上田さん、引き継ぎ順調ですか、
きょうあすだけだろ、道も分からないし、たくさんの人と会ったもんだから、なにがなんだかさっぱり、
あたしも入社したころ分からないところを所長に聞いたら、じぶんで調べたら分かる、って言われて大変だったんです、
営業所は昔美容院だったらしくて営業所らしからぬ照明がふたりを照らしていた
手動のガラス扉のむこうに見える曇り空のアスファルトがさえない色をしていた
ツジさんはユキオがここに赴任する経緯を詳しくは知らなかったようだ
知っていたのは所長が辞めその営業のあとがまとしてユキオが来たこと、カタヤマがぶち上げた半年で売上倍は初めて聞くらしかった
高松営業所半年で売上倍のことで所長は憤慨しカタヤマとやり合い会社を辞めてしまうことになったのだった
上田さん、その片山先生から電話です、
ユキオがカタヤマと話すのはあの応接室以来だった
上田さん、あれから散髪はされましたか、
散髪ですか、してません、
そうですか、いまから散髪に行ってきて下さい、
ユキオの不服そうな沈黙をカタヤマの甲高い声が破った
腕も人脈もない人間は勝つ確率の高い行動を選ばなければならない、ぼくはきみに勝ち方を教えてあげているんだよ、そんなことをカタヤマはまくし立てていた
ユキオはそれに親近感を覚えた
ひとから勝ち方を教わったことなど今までにあっただろうか
怒られてたんですか、
ツジさんがユキオに聞いた
いや、蛇つかいがうごきだしただけだよ、
そう言ってユキオはカタヤマのオールバックの匂いを思い出そうとした
胸のなかのじぶんの知らない蓋があいたときのことを思い出していた