魔女と少年
相馬四弦
迅く走る影は
あれは魚だと少年は信じている
軒下に吊されるまでに
鱗なんて全部
魔女の爪の中で砂金に換わるのに
あの子は雲を泳ごうとしたんだって
少年がまわれ右をすると
地球の自転が逆になる
それで一体何が変わるのだろう
確かに不確かな夢をみた
あの魔女の瞳の色を覚えているか
大陸を積み重ねて階段をつくるといい
いついかなる時も
この足元に転がる惑星は
魔女の爪先から弾かれる砂粒よりも軽く
少年はたやすく雲を手に入れてしまう
そして泳ぎ方を忘れてゆく
暖かい朝のスープに浮かんでいた日々
だったらどうだというのだろう
やがて連なる日々は糸となり
少年の魂を魔女の裾に縫いつける
世界の中心で転落に怯えながら
床に積もった砂金を掃き集めて
少年は空を飛ぶだろう
少年は空を飛ぶだろう
これが魚の鱗だったなんて
誰も信じやしないけど