魔女と少年
相馬四弦

迅く走る影は

あれは魚だと少年は信じている

軒下に吊されるまでに

鱗なんて全部

魔女の爪の中で砂金に換わるのに

あの子は雲を泳ごうとしたんだって



少年がまわれ右をすると

地球の自転が逆になる

それで一体何が変わるのだろう



確かに不確かな夢をみた

あの魔女の瞳の色を覚えているか

大陸を積み重ねて階段をつくるといい

いついかなる時も

この足元に転がる惑星は

魔女の爪先から弾かれる砂粒よりも軽く

少年はたやすく雲を手に入れてしまう



そして泳ぎ方を忘れてゆく

暖かい朝のスープに浮かんでいた日々

だったらどうだというのだろう



やがて連なる日々は糸となり

少年の魂を魔女の裾に縫いつける

世界の中心で転落に怯えながら

床に積もった砂金を掃き集めて

少年は空を飛ぶだろう

少年は空を飛ぶだろう

これが魚の鱗だったなんて

誰も信じやしないけど


自由詩 魔女と少年 Copyright 相馬四弦 2010-03-04 12:23:31
notebook Home