蛇つかいのはじまり
吉岡ペペロ

お客様をもっと回れ、6時まで帰ってくるな、という会社の指示通り、ユキオは6時きっかりに帰社した
倉庫をぬけて2階のフロアへの階段をあがりながら、きょうはやけにタバコくせえな、その階段の雰囲気でその日の会社の雰囲気が分かるような気がした

社長に呼ばれることなどないユキオが帰社するやいなや応接室に呼ばれた
そこにはまだなんと経営コンサルタントのカタヤマがいた
社長とカタヤマのまえにユキオと常務のイケダが座った
やわらかなオールバックのカタヤマをちらっと見てリストラという言葉がユキオに浮かんだ

上田くん、きみには高松営業所に行って活躍してほしいんだ、
社長が目を見晴らしてそう言った
常務はタバコをふかしていた
ユキオが口をすこしあけて息を吐くと電車が停車するような音がした
間延びしたなにかの準備をしようとするような音

上田さん、ぼくといっしょに高松に行きましょう、高松の売上を半年で倍にします、
カタヤマがニコリともせずにそう言った
上田くん、いやならいやと言っていいんだよ、ユキオを見ずに常務のイケダが言った
カタヤマがユキオを見つめていた
するとユキオの胸のなかで気づいてもいなかった蓋があいて言葉が出てきた

はい、分かりました、

ユキオが返事をすると社長がありがとうありがとう、と握手を求めてきた
カタヤマが爪をかんでうなずいていた
ユキオが息を吸うと電車の動き出すときのような音がした
高松まで電車に乗って行くのかな
ユキオは両の手を社長に包まれながらカタヤマを見やった
カタヤマがなんだか蛇つかいのように見えた






自由詩 蛇つかいのはじまり Copyright 吉岡ペペロ 2010-03-04 10:47:45
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