卒業讃歌
中原 那由多

柔らかな日射しに包まれて
梅のほんのりと香る今日の良き日に
鳥となる準備は整った
目まぐるしい日常の中に
留まることを許してもらえない代わりに
整理整頓を行うための箱を貰ってきた
捨てるべきものはたくさんあっても
残しておくものは本当に少ない

記憶と、あとそれから……


始まりは真っ白なキャンパスから
みんなそれぞれの絵を描き
それぞれの好きな色を添えてゆく
私は鉛筆で古びた塔を描いた
その天辺に赤い花を咲かせれば完成だったが
灰色の絵の具しか買うことができなかったせいで
結果、時間と理想を溝に捨てることになった
壁には今、マスターピースが飾られている

そんな駄作であっても愛し続けることを誓って以来


世間体に乗せられてのらりくらり
それが指差す方角であるならば
荊で怪我してしまっても
泣いて引き返すことはしなかった
もしも、ろくでなしでなかったのなら
光の向こう側はきっと空中庭園だったかもしれないが
砂漠を行くことは決して嫌いではない


名残惜しさを涙に変えられる人達が、少し羨ましかった
疎ましかったステレオタイプは
最後の校歌として通り過ぎてゆく
「さよなら」も「ありがとう」も
氷の顔にはやはり似合わないから
振り返らないで、その場を後にした


平成二十二年 二月二十七日




自由詩 卒業讃歌 Copyright 中原 那由多 2010-03-03 09:32:44
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