辛夷
月乃助


辛夷コブシの白い花が
ほころんでいました
図書館の前の小さな広場に
冬の終わりを 告げるように

けしてそれは、桜のように
春の訪れのあでやかさなどでなく、
可憐な細い花弁が 星になって
寒さに抗うように

美しいのですね
私の心を 静かに花色に染めるのですから
迷いもせずに一心に咲いている
わずかな時のために
冬の寒さをがまんしては、

足りないものなど何もない
救いのまなざしは、それでも
人を厳しく見つめるように、
それなのに、誰も気づきもせず
歩き去るのです 無関心に
下ばかりを見つめる 人の背
足波

通りに立つ
ミュージシャンの擦れた声に
許されたように耳を傾ける
花たちは、自らを散らすことさえ
躊躇わずに

けして運命などと
声をあげずに、
静か過ぎるその姿は、
ガラスの光を受けながら、知らぬ顔で
眠るように
私は、ひと時 我を忘れて
そして
その香りをかごうと 必死に
白い花になりながら、
爪先立ったり
するのです






自由詩 辛夷 Copyright 月乃助 2010-03-03 07:38:57
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