物語
蒲生万寿

その壁に

額を打ち付け泣き叫ぶ狂人

夢をくれ

言葉をくれ

明日の変わりに昨日をくれ

したたり落ちる血が花を染める

その果実を喰らえば

望み通りの扉は開く

後ろを向いて静かに入れ

言われる迄も無く

狂人は靴を放り投げる

ペテン師奴!

俺が本当に欲しいのは その影だ

鳥の羽をあしらった俺の影だ

どれだけ命を差し出せば

そいつを手に入れられるか

今日の分では足りないか

命など要らぬ

水を飲み腹から唄えば好きに出来る

しかしお前一人じゃ無理な話しだ

家から犬を連れ出して骨を与えろ

その上ねずみにガラスを齧らせろ

砕け散った底を見れば

自ずから知れたもの

何が見える

星か 月か

海か 魚か

どうでも構わぬ

右に8歩進んでから指を曲げろ

そこから生じる蒸気を吸い込めば

その時こそ

陽は沈む

雨が降る

雪が溶ける

最期の夏にうなされる

颯爽と舞い上がる雲は見えたか

それでも

お前はいつも独りだ…


自由詩 物語 Copyright 蒲生万寿 2010-03-02 10:18:42
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