あたらしい記憶
真島正人


まどから顔を突き出すと
この静かな町に
雨が迫っていた

雨粒を抱え込んだ
雲のにおいがする

そのとおり、
空の向こう側に
雲の壁ができていた

雲は
群がって

ひとつの大きな生命を
織り成している

そのさまは
僕たちにも似ている。



雨がやがて降ると
土を
人を
ぬらすだろう

稲はぬれて
喜び

草蛙は
雨にお礼の歌を歌うだろう

歌に引き寄せられて
メスが
歩いてきて

求愛も
するだろう

けれども
雨がぬらすのは
曲がりくねった
道、

土くれの
世界だけではなく

僕たちの
口の中にまで
浸透する

すでに唾液にぬれた口が
まだ
水を受け取ると

僕はどうなってしまうだろうか。



やさしい午後
つづれ織の生命

謳歌の声と
雨の気配が

交じり合って
それも、また

ひとつの図になる


自由詩 あたらしい記憶 Copyright 真島正人 2010-03-02 02:56:20
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