セルバの雨
楽恵

ラッパ鳥のダンス
応える相手のない
悲しい求愛のダンス

ふさがれたふたつの耳孔の奥では
季節のほとんどが熱帯の雨に閉ざされている

光る螺旋を降る
大気は息苦しく湿ったままで
密林の川を滑ってゆく
世界は夜も朝も
深い森林の雨に閉ざされている

大きな蟻が黒い列をつくって
死んだ獣の屍を落葉の下に運んでいく
荒々しい足音がする

木漏れ日の閃光を飛び越えて
蔓の絡みついた太い樹の枝から枝に渡る
猿の甲高い鳴き声が響く

絶えることのない猥雑な生命が
止むことのない雨の密生に聞こえてくる

ラッパ鳥のダンス
誘う相手のない
悲しい求愛のダンス

両手にふさがれた耳孔の奥では
世界は夜も朝も
密林に降り注ぐ熱帯の雨に閉ざされている



自由詩 セルバの雨 Copyright 楽恵 2010-03-02 00:04:05
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