うつすひと
恋月 ぴの

ちょっと勇気いるんだよね
あたりを見回してひと気ないの確かめたら
ちいさな箱のなかへ素早く潜りこむ

ペナペナなカーテンを閉ざせば
箱のなかにはなんとも顔色悪い薄倖そうな女がひとり

あんた誰なんだよ
いつまでも私につきまとってさ

どんなに悪態ついたってその女は私から決して離れようとはしない

そんなこと端から判っていることで
不景気な顔と嘘っぱちな職歴じゃ出すだけ無駄になるってもの

ふ〜ん、気に食わなければ撮り直しできるんだ

清涼飲料水とかの自販機の数ほどに
こんな箱がさびしげな都会の月夜には並んでいて
カーテンから突き出た足もとは律儀に黒いパンプスだったりして

どうせ写るのは上半身だけなんだけどね
それでも私だけパジャマにサンダルってわけにもいかず
精一杯なおしゃれとお化粧で薄倖な素性をごまかしてみた

こんなときって皆どんな顔するのかな

見知らぬ採用担当者に媚びた笑顔で擦り寄るんだろうか?

まだまだコート脱げそうにないけど
先週までの凍てつく寒々しさとはちょっと違う気がするし

いつもの野良猫が心配そうに私の様子窺っていて

4×3センチの小さな月夜に浮かぶのは
魂を抜かれまいと無表情を装う見慣れた顔の女がひとり

心細げにメンチ切る






自由詩 うつすひと Copyright 恋月 ぴの 2010-03-01 17:24:00
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