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喫茶店のいつもの席で読みかけの本を開いた
「お一人様ですか?」と店員に聞かれ言葉に詰まった

近くの席で若いカップルがコーラを注文した
飲み干した後の氷を噛む癖を彼女が注意していた

途切れたフィルムを巻き戻したような光景に
胸の奥で押し固めていた記憶が溶け出してきた


喫茶店のいつもの席でアイスティーを注文した
「今日は一緒じゃないんですか?」
そう尋ねてきたのは付き合いの長いマスター

沈黙に心の内を察したのか
さり気なくサラダをサービスしてくれた

さっきから店内で流れているラブバラードは
聞かないように封印していた思い出の曲
だけど今だってそらでも歌えるよ


窓の外日曜の駅前通りは人込みで溢れる
横断歩道にちらりと見えた見覚えのある長い髪は
もしかしたら、いやきっと僕の思い過しかな

色んな事を忘れようと努力してきたけど
氷を噛む癖だけは未だに直らないんだ


冷房が利きすぎていて席を替えてもらった
読みかけの本に挿んだ栞が風にそよいでいた


自由詩Copyright 1486 106 2010-02-28 23:26:39
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