創書日和「祝」 桜茶
逢坂桜


大安の日曜日、姉のために桜茶の用意をした。

5年越しの恋人が、婚約者となったのだ。

いつもおっとりした姉だが、この日もおっとりとしていて、

父親が迷ってばかりのネクタイを、一緒に選んだりしていた。

   5年前、素直になれる勇気があれば、

   桜茶は私のためになったのかも、しれない。

「これで全部?」

台所に立つ母を振り向く。

「ありがとう。後はお母さんがするから、

 あんたも早く着替えちゃいなさい」

「はいはい」

なんのかんのと手伝いを見つけて、着替えるのを後回しにしていた。


つつがなく終わった夜、母が台所で洗い物をしていた。

「手伝おうか?」

「もう終わるから、早く寝なさい」

「はーい」

振り向いた母と眼が合う。

母は眼を伏せがちにして、背を向けた。

「今日はお疲れ様。早く寝ちゃいなさい」

階段を上がりながら、涙が出てきた。

   どうしてわかったんだろう。

   姉も義兄も、誰も知らない私の秘密。

   どうして母に、わかってしまったのか。

こぶしでぬぐいながら、ふと思い出した。

母には妹がいた。

妹が嫁いだ翌年、父とお見合いして、結婚した。

姉が桜茶をお出しする時、息を詰めた表情の母を見ていたが、

母も、苦い桜茶を味わったのかもしれない。


自由詩 創書日和「祝」 桜茶 Copyright 逢坂桜 2010-02-28 14:51:36
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創書日和。