空気
真島正人
世間が
大きな怪物に見える
それよりももっと恐ろしい怪獣が
他の場所にいる
麦畑が
静かに揺れている
彼らも
約束された平和の中に
揺れているだけ
刈りいれ時の時間、
刈り取られてしまう
運命が
僕たちを木っ端微塵にする
血と汗と涙の世界に
置き去りにする可能性も
捨てきれない
僕は泣くことも出来ない
泣くと叱られるから
※
木のボートに
乗っている
午後の空気を吸って
吐いた
海は凪いでいる
どこまでも空が晴れている
カンディンスキーの絵のように
奇妙でも複雑でもなく
ぼんやりと
色彩は混じって
あるいは
印象派の絵のように
暖かい柔らかいものでもない
ただどこまでも突き抜けるような
広さと深さがある
それでこんなにも気持ちいい
この世界は
美しさの中に
同時に残酷さを孕んでいる
裏返しではなく
同じ場所にあることに
僕は驚いている
まるで
子供みたいに
※
大勢が話すと
それが正しいことに聴こえる
疑問が生まれていても
自分で疑問を殺してしまう
疑問もときには
必要な有機物だけれども
ないと、
スムーズに進む
進んでしまう
空気が
何かを歌っている
歌のタイトルには
緊張を孕んだことが
書き並べられている
あるいはもっとシンプルな
一文字のものだってあるさ
難しい言葉
複雑な言葉
それらを集約して
ひとつになった言葉に
僕は最大限に戸惑う
ふるえてしまう