空気
真島正人



世間が
大きな怪物に見える

それよりももっと恐ろしい怪獣が
他の場所にいる

麦畑が
静かに揺れている

彼らも
約束された平和の中に
揺れているだけ

刈りいれ時の時間、
刈り取られてしまう

運命が
僕たちを木っ端微塵にする

血と汗と涙の世界に
置き去りにする可能性も
捨てきれない

僕は泣くことも出来ない

泣くと叱られるから



木のボートに
乗っている

午後の空気を吸って

吐いた

海は凪いでいる
どこまでも空が晴れている

カンディンスキーの絵のように

奇妙でも複雑でもなく

ぼんやりと

色彩は混じって

あるいは
印象派の絵のように

暖かい柔らかいものでもない

ただどこまでも突き抜けるような

広さと深さがある
それでこんなにも気持ちいい

この世界は
美しさの中に

同時に残酷さを孕んでいる

裏返しではなく
同じ場所にあることに

僕は驚いている
まるで

子供みたいに



大勢が話すと
それが正しいことに聴こえる

疑問が生まれていても
自分で疑問を殺してしまう

疑問もときには
必要な有機物だけれども

ないと、
スムーズに進む

進んでしまう

空気が

何かを歌っている

歌のタイトルには

緊張を孕んだことが

書き並べられている

あるいはもっとシンプルな
一文字のものだってあるさ

難しい言葉

複雑な言葉

それらを集約して

ひとつになった言葉に

僕は最大限に戸惑う

ふるえてしまう



自由詩 空気 Copyright 真島正人 2010-02-28 13:08:52
notebook Home