そんなことはなにも問題にするべきことじゃない
ホロウ・シカエルボク


きみが聞いていても
聞いていなくても
そんなことなにも関係ない
ぼくに関心があっても
あるいはなくっても
そんなことなにも関係がない


ぼくはきみに話をする
いつわりの純粋さや
いつわりの野蛮さや
いつわりの扇動や
いつわりの初心をさらしながら


きみはいつか気がつくだろう
本当のことだけでは
本当の気持だけでは

きみが語りたいことは
ひとつも語れないんだってことに


ぼくはきみに話をする
きみがぼくに関心がひとつもなくっても
きみがぼくの言うことをまったく聞いていなくっても
そんなことはなにも問題にするべきことじゃない
ぼくが話をすること
きみに話をすること
大事なことはそれだけ
津波警報よりも大事なことは


言葉が流されてしまうことを恐れないで
受け止められたってそれは正解じゃない
きみのまなざしは誰かが受け取りやすいように都合よく変換されて
むしろ受け止められなかった方がましだったなんて結果をもよおすことはざらにある
言葉が流されてしまうことを恐れないで
むしろ受け止められようと思った自分を恥じて


コミュニケーションのすべてはまぼろしなんだ


だからぼくはきみに話をする
それは成立しないということが分かっているから
あきらめというよりは経験や
実験に近い気持ちできみに話をする
きみがどんな気分でいまここにいるかはわからないけど
出来れば少し興味があるみたいに小首をかしげてくれると嬉しいね
そんなリアクションはぼくを少し浮かれた気持ちにさせて
そしてぼくはどうでもいいことまでついつい口にしてしまうかもしれない


見えない食事、ねえ、ぼくらは
目に見えない、感じることの出来ない食事を差し出し続けているみたいだと思わないかい
誰がオーダーしているのかもわからない
どんな理由で作り続けているのかもわからない
奇跡的に口にすることが出来たってそれがどんな味なのかもわからない見えない食事
いったいどれだけの食卓がそれを成り立たせてきたんだろうと
たとえばそれが成り立った時にどんなものが訪れるのだろうと
なにもわからないのにどうしてぼくらはそれを差し出し続けるのか
なにも出来ないのにどうしてぼくらはそれを追い続けるのか


ぼくはきみに話をする、まるで昨日の新聞について話をするみたいに
途中でどんな障害がそこに差し込まれても
そこそこ納得するまではぼくはきみに話をする
それは聞かれていなくてもかまわないことなんだ
誰も居ない土地にも日は照り
雨は降り、風は吹き、雷は落ちる
ぼくはそんな風にきみに話し続ける
もしかしたらいつか君もそのことに気がつくかもしれない
だけどそれはぼくの話したこととはすこし違っているに違いない
でもそんなことはなにも問題にするべきことじゃない


繋がらない回線を投げ出してはいけない
そこにこそ何かを投げつける意味がある



自由詩 そんなことはなにも問題にするべきことじゃない Copyright ホロウ・シカエルボク 2010-02-28 11:51:17
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