かみのひこうき
コーリャ
たとえば鉄の味のする夜に
街がプラタナスの樹木にかわってしまうと
ひしゃげたかみひこうきが
ポストに突っ込まれる
それを開いてみると
不在票と書いてあり
ぼくに郵便物があって
差出人はかみさまらしい
電波塔は群れで飛ぶ鳥たちに占拠されてしまい
しかたがなく
風に周波数をあわせていますとでもいうように
ラジオの音声はみだれていて
ようやく理解できたpassageは
「このハルいちばんのとれんどはヒコウです」
ぼくがそれを伝えようとすると
あなたは
かみひこうきを折りながら
讃美歌をうたっている
天使の羽が降るじかんには
すべてがゆるされてしまう
そんな内容だった
河原では
もうすでにおおくのひとがあつまり
かみひこうきをとばしていた
まるでじぶんたちが地平線まで飛行するように
ちからいっぱい
いっしょうけんめいにとばしていた
そらのとりわけ青い一節にむけて
第一号があなたの手から離陸した
雲間からこぼれおちる光が
滑走路みたいにみえた
その傍らでは風が光って浮き彫りになって
さまざまな指示看板になっていた
かみひこうきを折ることは
祈ることのようだね
とあなたは白い指をとめずにいう
漢字もにてるしね
というと
いやな顔をする
たくさんのひこうきが青空の胸襟にかくされていく
ときどき白紙のボディをするどく光らせながら
宙返りするものがあって
こどもたちはそのたびいみのない喚声をあげる
いままでのすべてを
なかったことにしようとするみたいに
plainな晴れ空だった
ときどきゆうぞらは
感情を燃やしてしまう
引火したかみひこうきは
川面に不時着したりした
墜落すると地獄みたいだ
いっきに濡れそぼるのだが
それとどうじに燃えていくので
ずるずるとくずれていき
中からはわらわらとはい出してくる黒い記号があって
それは紙面の文字たちで
その大半は正直さをうしなっておぼれてしまう
川が白濁するのは
そういうさようならの言葉が溺死するかららしい
しかしぼくとあなたのかみひこうきはかえってきた
まっさらな空白であったはずの両翼には
絶滅したことばのひみつで詩がかきこまれ
宇宙にはえる花のデッサンもえがかれていて
それらをみせびらかすみたいに
ぼくたちの頭上をぐるぐると旋回飛行していて
夜になってもぼくたちのすむ世界には着陸しなかったので
それからというもの
ぼくはかみさまを信じるようになる
そしてきょうも
たくさんのこどもたちとおとなたちが
かみひこうき
をそらにささげる方法で
私信をおくって
返信はそらをぐるぐるかけめぐって
ぼくたちはそれをおいかけて
めいいっぱい差しだした手に受けようとしたりしている
その光景は踊ってるみたいで
おわりのない祈りのようでもあって
あなたはそのなかでも
ひときわ軽やかに河原を走りながら
夕暮れていくそらに向かって
いちばんおおきなこえで
讃美歌をうたっていた