アホウドリの島
楽恵

気がつくと、俺は漂流していた
大洋のど真ん中に、俺ひとりだった
広い海は恐ろしいほど青く、そして黒かった

小さな板切れに横たわっていた
頼りなく波間に揺られながら
自分が置かれている状況に呆然としていた
目を凝らしてあたりを見回しても、船影はまったく見当たらなかった
幸い風は弱く、波は穏やかだった
喉がヒリヒリと渇いて痛かった
(死ぬかもしれない)
体力も随分と消耗している

その時、俺の身体を覆うほど大きな影が、俺の頭上を突然横切った
(飛行機か)
影の正体を、必死になって探した
それは飛行機ではなかった
鳥だった
翼を広げた大きな一羽の鳥だった
見たことのない大きな白い鳥
鳥は翼を広げたまま、風に乗るようにして
俺の頭上を何度も行ったり来たりした
その度、海面に灰色の影が落ちた

鳥は頭の部分が黄色い羽で覆われ
くちばしだけが鮮やかなピンク色だった
よく見ると、翼だけは黒かった
広げた翼の長さが2メートル近くあった

俺は海の上をどんどん漂流していったが
鳥は何故か、俺のそばを離れなかった
そして空を見あげるたび、その大きな白い鳥と目が合った
鳥は空から俺を観察しているようだった
無性に腹が立った
(馬鹿にしやがって)
こちらは今まさに死にかけているのに
鳥は瀕死の俺の状況を楽しんでいるように見えた

しばらく流されていくと、遠くに小さな島影が見えてきた
緑の植物がほとんど茂っていない、岩だらけの黄色い島だった
島の上空には、何千という海鳥が、
まるで黒い雲のように群れていた

よく見てみると、群れている鳥は俺にまとわりついてきた白い鳥と、同じ種類の鳥だった
潮風に紛れて、ピー、ピー、という甲高い鳴き声が聞こえてきた
俺の頭上に飛んでいる奴が、カッカッカッと遠い仲間に応えるように鳴いた
島には、その鳥が恐ろしいぐらい群れていた

(まるで、鳥の島だ)

島はだんだんと近づいてきた



自由詩 アホウドリの島 Copyright 楽恵 2010-02-27 03:53:49
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