私の秘密の宝もの
みずまくら

私には
赤いゴムの水枕に
特別な思い入れがあります

私が夜毎に使う枕
その枕は理由わけあって
  たぷたぷ
  揺らいで水を鳴らす
  赤いゴムの水枕です

水道の水を入れて
クリップでパチンと留め
日本手拭を巻いて
極寒の真冬の時期でも
程よい冷たさにし
夜毎の枕に使っています


  私は
  中学校を卒業するまで
  身体がとても弱く
  扁桃腺を腫らしては
  高い熱を出し
  よく学校を休んでいました

  母は
  私が熱を出す度に
  井戸水を汲み
  冬には軒の氷柱つららを入れて
  水枕を作り
  熱で火照った頭を
  水枕に
  そっと乗せてくれました

  火照る身体に
  冷たい水枕は
  とても気持ちのいいものです

  私は
  度重なる水枕の
  甘美な心地よさに
  水枕が忘れられなくなって
  健康な普段でも
  水枕の事で
  頭が一杯になりました

  そして
  社会人になり
  初めてのサラリー
  そのとき
  どうしても欲しかった
  赤いゴムの水枕を買ったのです

  夢にまで見て
  欲しかった赤いゴムの水枕
  自分のものになって
  本当に嬉しかった

  そのときの気持ちは
  今でも鮮明に記憶に残っています

それから半世紀以上
今でも普段の枕は
夜毎
赤いゴムの水枕です


一日を終えて
水枕に頭を沈め
ベッドに静に眠っていると
水枕は
何故か独りで
水を鳴らし始めます

  たっぷん たっぷん
   ちゃっぷん ちゃっぷん

水枕は
気ままで気まぐれに
それでもリズミカルに

  たっぷん たっぷん
   ちゃっぷん ちゃっぷん

私の耳元で
水を鳴らし続けます

  揺れる水が
  水枕のゴムの内から
  頬を軽くノックします

水枕は
水を鳴らす度に
目の前のひとつ目フックを
可愛らしく
ゆらゆら揺らします

水枕の
心地いい水の揺らぎ
小気味いいリアクション
耳元に優しい水の音
そして
程よい冷たさの爽やかさ

水枕に頭を沈める
眠る前の甘味な至福のひと時
一日の憂さは
水枕の水の波に
水の音と一緒に消し去られ
私は安らかな眠りへと
誘われて行くのです

私は
半世紀を超える夜毎
赤いゴムの水枕で
眠り続けていますが
決して飽きる事はありません

それは水枕の
水の音
水の揺らぎや
リアクションに
夜毎新しい発見があるからです

その発見は
私でなければ分からない
私の秘密の宝もの

夜毎使って
決して飽きない
赤いゴムの水枕

水枕は
これからも
私の命が絶えるまで
私の耳元で

  たっぷん たっぷん
   ちゃっぷん ちゃっぷん

揺らいで水を鳴らし
夜毎
私に秘密の宝ものを
差し延べ続けてくれるでしょう


自由詩 私の秘密の宝もの Copyright みずまくら 2010-02-26 12:19:23
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