冬越え
within

日が長くなってきた
暖かい日がちらほらと
そろそろ学生遍路が道に迷い
路傍で空を見上げる頃か

蝉の鳴き声が聞こえる
まだ冬の終わりだと言うのに

耳鳴りだろうか?
幻聴だろうか?
それとも遠くで
本当に鳴いているのかもしれない

「冬の間に寺で中風封じの大根炊きを
頂くとええ」
と叔母さんが言う
僕は
「まだ大丈夫です」
と苦笑いをしてやり過ごす

小学生の頃
寺の住職の孫と仲の良かった僕は
何度も寺の山門をくぐり
静かな境内で友達の名を呼んだ

しかしもう訪ねることはない
いつしか僕は禁忌のように扱われ
外の世間は遠いものとなった

大根炊きは今も行われているが
寺の住職は知らない坊さまが継いでいる


自由詩 冬越え Copyright within 2010-02-25 08:02:46
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