平面海溝
15フィールズ

海の匂いがする
そしてあなたの匂いがする
海はさざ波一つなく
空から降り注ぐ
まばゆい光を乱反射して
ところどころに見えない部分ができている
あなたは微笑む
僕は海に手を入れるけど
何かを掴み損ねる
おまけに耐えられないくらいに
海は冷たい
あなたは砂浜で欠けた貝殻を拾う
僕は海から引き上げる
砂に書いた言葉達が
波に引きずりこまれた
どんな言葉だったか
もう思い出せない
僕はあなたへ近づいていく
そしてあなたと親密さが許した距離に近づいたら
僕はこう言うのだ
「もういいだろう」
それを聞いたあなたは
手に持った欠けた貝殻を
海へ思い切り投げた
貝殻は
ピチャ
とできるだけ存在を消すように
波を立てないように
海の中へ沈んでいった
僕は貝殻が海の中へ沈んでいく様を想像した
深くて光の届かない暗闇へ
ゆっくりと
しかし着実に沈んでいく
欠けた貝殻
しかしそれは
想像を絶することだった
僕はそれについて考えることをやめた
海の匂いがする
だからあなたの匂いがする
あなたは微笑む
しばらく僕達は見つめ合う
けれどずっと黙っている
いつだってそうだ
だいたいみんな
ずっと黙っている


自由詩 平面海溝 Copyright 15フィールズ 2010-02-25 03:09:50
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