春待ち蝶々
古月

あちらの通りにもこちらの通りにも
切り紙の蝶々が舞っていて
お母さんにとって、と言うと
あれは冬をつれてゆくのだと言う

ところで
だめになることを蟄居という
たまたま螺子の加減がね、どうかしらして
金銀と降る紙吹雪を拾っては撒き拾っては撒き
雨戸のうちはいつも雨降りで
お皿酒びん時々かみなり
いいえ、包丁は料理をするための道具です
うそうそうそうそ嘘ばっかり
私見たもん
そう
たくさん本を読みまして
まともな大人になれませんでした
二階の窓から餅を撒くおばあさんが
ひとり拾って食べている

さて
目抜き通りにはちんどんちんどんと賑やかなのが来て
肉屋の軒では子猫が生まれた(かわいい)
見て、
頬を塗る子の林檎病みたいなのが
跳ねるの尻尾の生えたような
見て、
生まれて一度も切ったことのない
長い長い髪を切ったのよ
そしたらそこから先は簡単で
続きは滲んで読めなかった

あちらの通りにもこちらの通りにも
切り紙の蝶々が落ちていて
お母さんにとっていい、と言うと
お母さんも紙切れだった
そういえば暖かな陽気ですねと
えりを立てて歩く私にも
ねえ、
鋏があれば春がくるのでしょう
またお嫁に行く姉さまのように
ねえ、
みんな桃の枝を折るのに夢中で
蝶々が踏まれるの誰もしらないの


自由詩 春待ち蝶々 Copyright 古月 2010-02-25 00:35:24
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