君がいなければ僕など意味もない
瀬崎 虎彦
そして雪が降っていたのだと思う
僕たちは逃げるように汽車に飛び乗って
石とレンガと煙の支配する町から抜け出した
音楽は遠い場所にあった
文字は誰ひとり読めなかった
僕たちは独りでいることに慣れていなかったし
人が独りでいるのはよくないと
左脳で本能が叫んでいた
そして音楽が終わる
回廊を抜けて
天井を見上げて
(そこには天上の絵が描かれていた)
君が振り返り
笑った
首が痛くなっちゃうね
そして音楽が終わる
この場所にとどめ得ないものを
永遠の名において呪詛し
僕はささやくように口にした
君がいなければ僕など意味もない