男装
楽恵
まず、声を変える
あー、あー、
自分にとって、いちばん低い声を確かめる。
鏡に向かうと、
バリカンで髪の毛を短く刈り込む
思っていた以上にサッパリとする。
大仕事はこれからなのに
どこか拍子抜けしてしまう
ワンタッチタイプの付け髭を
上唇のうえに付ける。
これだけで印象はまったく変わる
自分の口髭を撫でる。
しのび笑いする
女が絶対着ないような、
男物の服に着替える。
胸や身体の形が分かりにくい
たっぷりとした厚手の服。
上げ底のブーツを履く。
玄関先で鏡に映る自分の姿を見て
思わず声をたてて笑ってしまう
下駄箱の上に置いてある花瓶の
ソレイユの赤い薔薇が
私の笑い声でふるえる
ふだんは女のふりをしているが
今日は男のふりをするのだ。
ふだん女のふりをしているように
今日は男のふりをするのだ。