秘密
たもつ
夏の正午に駅が沈む
誰かが思い出さなければ
なくなってしまうかのように
向日葵が咲く、その近くで
若い駅員が打ち水をしている
息づかいは聞こえなくても
肩を見れば呼吸をしているのがわかる
反対側のホームに列車が到着する
誰も降りず、誰も乗らず
海のある町に向かって出発する
あと六分、列車は来ない
あと六分私はここにいて
あと二十数分後には
ここよりも賑やかな人ごみの中にいる
ほんの一瞬、建物と建物の間から
向日葵が見える場所がある
私だけの秘密のはずなのに
みな足早に歩いていても
そのことを知っている様子で
一瞥すると
再び呼吸を始める