国の季
木立 悟
わたしは川を下り
骨だけの草
骨だけの景を組み立てる
雲を集める
息を集める
ひらひらとする
羽のつけ根にひろがる国
赤く透きとおるまなざしの国
からだのすべてに生えてくる
羽の芽とともに興る国
今 左目が消えてゆく
今 右目が二つになる
右と左の腕はつながり
胴を巡る波の輪となり
明るく歪んだ歌を奏でる
ひとりの走りの時は終わり
誰もが走る時がはじまり
置き去りにされたものさえ走り出し
騒がしさは 歌は 消えてゆく
たくさんの国が消えてゆく
風が静かで なめらかで
わたしはもうどこにもいないようだ
水面の油を追い
雲の影に分かれ
水鳥の羽のつけ根に眠ったまま
わたしは飛び去っていた