兄貴への手紙
アマメ庵

兄貴への手紙

兄貴。
ご無沙汰しました。
そっちの皆なは、達者にしているでしょうか。
組に迷惑をかけた末、浜を去って、人を心配する筋合いでもねぇのかも知れませんが、家族と思って過ごした皆なをいつも心配しています。
俺もいろいろ落ちつかなくて、長い間のご無沙汰で、本当に済まなく思っています。

兄貴。
俺が、事件のあと浜を去ることを決め、兄貴と伊勢崎町を呑みまわったあの秋から、もう二年と少しになります。
俺は、浜を離れてから、鹿児島県のある離島に流れ着きました。
島の人は皆な親切で、逸れ者の俺を受け入れて呉れました。
畑の手伝いをしたり、大工の真似事をしたりで、小遣いを貰っています。
島で堅気な生活をしていると、兄貴と仲間たちとネオン街を闊歩したのが嘘のようです。
それでも、俺は、こんな暢気な生活の方が、性にあっているのかも知れません。

兄貴。
俺は、こっちの組で、焼酎の芋を作っています。
組と言っても、地元の若い衆が集まった農業組合です。
去年は、不作にあってしまいましたが、今年は上々の芋が採れました。
先月末に焼酎屋に出した芋で、焼酎が出来てきたので送らせて貰いました。
浜の皆なで召し上がって下さい。
手前贔屓かも知れませんが、美味い焼酎だと思っています。
ビールしか飲まない武の阿呆にも、焼酎の味を教えてやってください。

兄貴。
兄貴が最後に呉れた皮ジャンバーは、大切にハンガーにかけて仕舞ってあります。
このジャンバーが、俺が浜に居た唯一の記憶です。
時々、出して見ては、根岸線のガードを思い出します。
どうした訳か、俺には少し大きすぎるみたいです。
兄貴は俺よりタッパが低かったはずですが、俺はまだ兄貴のような大きな人間になれていないと言うことだとおもっています。

兄貴。
余計なことを書いちまったみたいです。
島の夜は長いので、余計なことを考えてしまうのです。
兄貴がみたら、「ボヤっとすんな」って、ぶん殴られるかも知れません。
また、余計なことでした。

兄貴。
来年になったら、また焼酎を送ります。
どうか達者で、暇があれば島にも遊びに来てください。
皆なにも宜しくお伝えください。

飯塚雅之様
          中島大介


散文(批評随筆小説等) 兄貴への手紙 Copyright アマメ庵 2010-02-18 19:43:16
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