白紙委任状
たもつ

 
 
下着売り場で羽化したセミたちが
越冬のために南へと渡って行くのを
ぼくらは最後まで見届けた

空の遠いところにある白い一筋の線
あれは飛行機雲じゃない
だって、ほら
指で簡単に触れる

葉の中を葉が落ちていく
水の中で水が溺れる
文字の中で文字が沈黙してしまう
抜殻を集める作業の途中
ぎざぎざした硬いところで
ぼくは指を切ったのだった

セミがたどり着く国境近くの小さな村
廃屋に忘れ去られた手づくりの
粗末な人形のすぐ側で
小銃はもう何も壊さず、何の命も奪わず
ゆっくりと朽ち果てていくだろう
誰に見届けられることなく

抜殻を集め終えると
ぼくらは柔らかな記号のように
身体を曲げたり伸ばしたりする
そして
あなたは便箋になる
ぼくは封筒になる
 
 


自由詩 白紙委任状 Copyright たもつ 2010-02-17 21:04:40
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