駆け抜ける彼女
within

息が凍りつく
順番が回ってくる
もうすぐ
目の前で走る
彼女の姿を見やるが
自分の番がきたら
もう一度
深呼吸をする

私はただ楽しくて
誰よりも速く
過ぎ去っていく光景を
知ることができる
自分の言葉を
伝えたかっただけ

何百
何千と
繰り返したゲームの
失敗と栄光の中から
紡ぎだした儀式を
これが最後になるであろう
今日もまた
同じようになぞっていく

誰だって
自分の閾を持っている
私だって
自分の世界があるけど
そこに
光が射すのは
風が吹くのは
緑が香るのは
いつも誰かが
傍にいてくれたから

始まりのサインが
点されたとき
自身の体は
真綿のように浮き上がり
意識はただ目の前を流れる風景を
見やるだけのカメラになる

世界は私に微笑んでくれた
世界は私を絶望に落としてくれた
だから私は私を切断した
裁断された私は
私が私でなくなる瞬間の
一瞬の身じろぎを
味のしない
唾といっしょに飲み込んだ

踏み固められた雪のコースを
まるで
敷かれたレールの上を
走るように
滑走してゆく
次々と
コブだらけの
斜面を
可能な限りの速さで
駆け抜ける

いつか少女だったころに見た
何もないまっすぐな斜面を
滑り降りた
まっすぐな気持ちで
滑り
飛び
駆け抜ける

暖かな秋から始まった
厳しい冬は
私に新しい孤独を与えた

新しい数式と新しい力学が
終わっていく世界の弔辞をおくり
始まりゆく世界の名付け親となる

ゴールに辿り着いたとき
天に突き立てた
両の拳は
自身が終わったことを告げ
朝、
人差し指の冷たさを
感じ取った親指が
黙って伝えてきた
存在の確かさを
生命をかけて
全身で象徴していた

整わない弾む呼吸で見た
電光掲示板に映る
彼女の記録は24.68ポイント


自由詩 駆け抜ける彼女 Copyright within 2010-02-15 11:45:30
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