詞花集、文字たちのアイウオーレ
小池房枝

庭の中では
わたしは園丁です
剪定ばさみ片手に
いろいろ切り詰めてまわります

あおあおとした小枝
みずみずしい若葉
手を入れるべき季節というものはありますが
どれも好きなだけ伸びてもらうというわけにもいかない

植物たちの多くは
咲くよりも繁りたがるし
次々にきれいな花を咲かせ続けるより
蓄えは結実に費やしたがる

咲くはずの花を見たいのであれば
肥料をやったりやらなかったり
枝を切り詰めたり選んで伸ばしたり
時がくるまで
何年も待たなければならないこともある

抜き捨てるべき草々も
根っこから引っこ抜かなければなりません
できれば引き抜いたところに
土がやせてしまわないように土ごと裏返しに

本当は幾らでも生えていて欲しい
一面に柔らかな下草の緑
草の波、草の海に埋もれてしまわない程度にだけ
背の高い花々
そこかしこに点々と花と実の絶えない果樹

けれどわたしは天使ではないので
小さな庭の園丁なので
種も蒔きますし苗を植えもしますが
いろいろ切り詰めてまわります

水をやり
溝を切り
今だけはごめんねと
どうせ絶対に根絶やしになどできない雑草たちを引き抜き
限られた地面に咲かせられるはずの花の幾つかは
いつでも何か咲いていてくれることを
夢見、願って

街のアスファルトや海や砂漠や
押し寄せてくる野生の緑の津波の中で


自由詩 詞花集、文字たちのアイウオーレ Copyright 小池房枝 2010-02-14 23:53:43
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