毒見役としての僕の為に
高梁サトル
ごらんよ、僕たちの家が燃えている
帰る場所を失くした孤児は、何処へ向かうのだろうね
・
顔をあげて 僕の最後の一滴まで飲み干して
ゆるやかに 死に絶えてゆく世界で
胎児の産まれる 慶びを語り合おう
一欠けらのパンをわけあって 家族の夢を見よう
夜は互いの 痙攣する心臓に耳を澄ませて
引き裂かれた朝を 出来る限り優しく迎える準備をする
落とした鎧戸が 僕たちの静寂を護ってくれるから
まどろみの草原を駆けながら 灰色の風に笑おう
・
架空の名を持つ 美しい仮面が並ぶ部屋で
僕たちだけの 至高の約束を考えよう
あらゆる愛を綴った 書物を破り捨てて
「重荷を背負い 迫害を受けても おまえを愛しぬくと誓う」
嗚呼 無知なるペンは なんとよく滑ることか
英雄と謳われたあの男も こうして異国の女王に
恋文を書いたのだろう およそ自分の欲望の為に
それもまた 今夜はいい
・
偉大なる死に辿り着く 道のりは険しい
それまでは押し黙って 俯き 黙々と荒野を歩むのだ
太陽も海も大地も何も 僕たちの闘争を妨げはしない
枯渇した人知の泉で 動植物の嘲笑が聞こえるよ
生命とは贄のように在るべきだとね
数千億年の座興に終わる 僕たちの魂が救われますように
残欠された 易しい空想が泣いている
・
いくら何を話しても満足出来ないのは、
誰もあの人ではないからと知っているよ
ならばそうだ、
毎晩少しずつ毒を飲んで慣らしてゆけばいい
そうすれば少しずつ、
耐え難い苦しみも緩和されてゆくだろうからね
この小さな杯を飲み干して
さあ、よくおやすみ、今日の僕