異邦人
さき

硬い
石の群れに
たまに
私も呼吸を忘れる
人肌の
暖かさも
しばらく
思い出していない


交わるようで
交わりきらないのは
きっと
全てのことに当てはまるようで
母の胎内を懐かしいと言えない
不幸と
あの穏やかな場所を忘れて
悲しみや
苦しみばかりを
故郷とする
業を
いつか
誰かが
抱きしめてくれるのだろうか


眠る以外は
思い出している
いや
思い出さないようにしている
ここにいることの
必然と偶然
戻りたい故郷は
もう
どこにもないのだ



今日
すれ違った風の匂いが
遠いあの町の匂いだった
でも
それは
母を待っていたバス停だったのか
弟と遊んだ野原だったのか
彼と走った河原だったのか
一人で泣いた街角だったのか
もはや判別がつかず
どこにもない記憶が
懐かしいのだという
分け合うことのできない
当てどころのない思い
そして
また
一人きり
を味わう



今年も
私に
私だけの
あの
春が
来る












自由詩 異邦人 Copyright さき 2010-02-11 21:06:23
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