『コインロッカー』
東雲 李葉

家出少女がピンクの小さなリュックをロッカーに。
少し思い詰めた顔で化粧を直して笑顔を作って。
100円が ちゃりん と音を立てて吸い込まれる。
胸ポケットに鍵をしまったらどこかに電話を甘えた声で。
細い脚を揺らしながら明日からの糧を稼ぐのだろう。



くたびれたサラリーマンが旅行鞄とエコバッグをロッカーに。
迷いは恐らく断ち切れて感情を何も貼り付けていない。
200円が ちゃりちゃりっ と落ちていく。
鍵をロッカーの下に隠して会社鞄を大事に抱える。
あ、はい。その電車で行けますよ。どうぞ、お気を付けて。



仲睦まじい男女がキャリーカーをロッカーに。
微かに震える細い指をぎゅっと握る足りない指。
300円が じゃりじゃり と音を立てて飲み込まれた。
鍵を女性に渡したら、「うまくいくさ」と力強く。
彼女はきっと鍵を開けには来ないだろう。




違う意味を持つもの達が皆主人の帰りを待っている。
閉めた人と開けた人の違いなど彼らにとってはどうでもいい。




500円のロッカーに人は住めるかしらと尋ねてきた人。
「どうですかねえ」と愛想笑いを浮かべる僕。
「100円じゃあまりにも狭いから」って。
ちゃりちゃりちゃりちゃりちゃり 無機質に投下された硬貨。
肩の荷が下りた顔で颯爽と繁華街へと向かう足取り。

もしもし、鍵を忘れていますよ。中身は僕が預かりますね。


自由詩 『コインロッカー』 Copyright 東雲 李葉 2010-02-11 18:04:35
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