『コインロッカー』
東雲 李葉
家出少女がピンクの小さなリュックをロッカーに。
少し思い詰めた顔で化粧を直して笑顔を作って。
100円が ちゃりん と音を立てて吸い込まれる。
胸ポケットに鍵をしまったらどこかに電話を甘えた声で。
細い脚を揺らしながら明日からの糧を稼ぐのだろう。
※
くたびれたサラリーマンが旅行鞄とエコバッグをロッカーに。
迷いは恐らく断ち切れて感情を何も貼り付けていない。
200円が ちゃりちゃりっ と落ちていく。
鍵をロッカーの下に隠して会社鞄を大事に抱える。
あ、はい。その電車で行けますよ。どうぞ、お気を付けて。
※
仲睦まじい男女がキャリーカーをロッカーに。
微かに震える細い指をぎゅっと握る足りない指。
300円が じゃりじゃり と音を立てて飲み込まれた。
鍵を女性に渡したら、「うまくいくさ」と力強く。
彼女はきっと鍵を開けには来ないだろう。
※
違う意味を持つもの達が皆主人の帰りを待っている。
閉めた人と開けた人の違いなど彼らにとってはどうでもいい。
※
500円のロッカーに人は住めるかしらと尋ねてきた人。
「どうですかねえ」と愛想笑いを浮かべる僕。
「100円じゃあまりにも狭いから」って。
ちゃりちゃりちゃりちゃりちゃり 無機質に投下された硬貨。
肩の荷が下りた顔で颯爽と繁華街へと向かう足取り。
もしもし、鍵を忘れていますよ。中身は僕が預かりますね。