シーニュとしての擬似死
高梁サトル
おまえは死への憧憬もないまま 籠を抜け出して
まだ春も遠い 凍える大地へと羽ばたいていった
空高く飛翔することも出来ない そのか弱い翼で
導きの手もないまま 朽ち果てる身体は
誰にも知られることなく 静かに黙殺されるのだろう
しかしそれは これ以上ない程に自然な事なのだ
・
私は疑問を抱くという自惚れに 陶酔し過ぎていた
ヒロイックな顔をして 真理を求める者たちの
その紅潮した頬を 美しいと信じていたのだ
しかし今でも変わらずある 彼らへの愛は
私の歪んだ 悪趣味としてのそれであることを
ここに 告白しておかなければならない
・
ヴェールの向こう側は 無だ
「MON.VERRE.N’EST.PAS.GRAND.MAIS.jE.BOIS.DANS.MON.VERRE」
私は 多くを望みはしない
・
冬のうちに 一度死のうと思う
花売りの少女たちが 清らかな笑顔で男を誘う
そんな季節が 来る前に
受粉を待つ彼女らの 華やかな色彩
あれは衰退の前兆 死臭は甘いと知っているか
過敏になった神経に その芳香はあまりにもきつい
・
鳶色の鳥が耳元で「弱虫」と囀っている
もしもおまえとの再会の場所が 白洲であったなら
私はすぐさま この喉笛をかき切ろう
「愛していた」などと告げて 赦しを乞うたりしないよう
それが厭わしいほどの 私からの愛の証だ