レンガ
イシダユーリ
階段を降りて
坂道を下ったら
ともだちがきえていた
目の前を
横切る電車に
乗っていったのだった
老夫婦が手をつないで
それを見ながら
歩いていた
Aを語るB
Bを語るC
Cを語るD
と
吐き気はつのり
もう
夕方だったんだな
帰っていく
はずだ
彼らも
壁に
思いきり
顔や体を
打ちつけるまで
壁に
気がつかないのは
生きているからで
めいいっぱい
ひろげた
四本指を
窓にはりつけて
どうか
わたしいがいの
ものが
ここに
のこりますように
と
願ってばかりいる
制服姿しか
思いだせない
同級生が
黒髪のまま
死んだとき
足元をみて
空をみて
すばらしいことだった
手をつかって
空気を
ゆらしたんだからね
だれもが
また
足元をみて
今日
すれちがった
ひとの顔を
おもいだす
肩から
新鮮な体液が
ふきだして
彼らを汚した
彼らの
視線が
わたしの
靴を焼いた
そうやって
駄目じゃないか
いっこうに
拒否がなおらない
どうか
わたしいがいのものが
のこりますように
わたしから
わたしいがいのものが
ふきだしますように
電車に乗るのも
目の前にある
背広を睨みつけるのも
ただ
すみませんと
言ってみるのも
みな
生きているからすること
だった
お坊さんがいない
お寺に
生えている木をなでれば
果物が落ちてくる
この木に
動物は
こなかったと
ともだちは言った
そして
わたしたちは
木の肌をなでた
ミッキーマウスがいるのも
ドラえもんがいるのも
もう
しかたのないことだったから
わらおう
なこう
とする
サルのしっぽは
すりきれている
お坊さんのいないお寺には
こなかった
きれいな黄色の
サルたちが
わらおう
なこう
と
しかたないね
ぜんぶ
いきているから
したことだから
気がつかなかった
人にぶつかるまでは人に
壁にぶつかるまでは壁に
海におぼれるまでは海に
山にのみこまれるまでは山に
いっこうに
気がつかなかったんだよ
ともだちが
いなくなるまでは
ともだちを
しらなかったんだ
ふきだした
新鮮な体液が
ふきだした
瞬間から
腐っていく
わたしは
みなの
腐った体液に
まみれ
仕事や遊びに
でかけていく
ねえ
きみたち
みな
いろんなことを
言うだろうね
歩いていたら
いろんなことを
言われるだろうね
かわいい
あんまりかわいくない
生理的に受け付けない
好き
好きじゃない
どっちでもいい
てんさい!
おんなのこだ
おとこのこだ
れんあいだね
もうもく!
ちょっとおかしい
びっこ
すごい
ねえ
きみ
けど
ことばの
おなかを
さくことも
かれらの
おなかを
さくことも
できないんだから
ペンキ
ひっかけあって
色まみれに
なれば
お坊さんが
もういちど
とても悪い顔をして
お寺の
てっぺんで
踊るでしょう
軽蔑しながら
欲しがっているから
狂うほどだよ
ともだちが
帰る家も
電車の
行き先も
いっこうにしらない
けれど
サルが
電線を渡っていくのを
みたから
安心して
お坊さんは
屋根から
墜落する
さあ
果物の
色は
とても
濃い