だれもしらない
古月
六月の陽が射して
雲を払い
風は流れて
雨が上がる
濡れたままの
あなたとわたしは
ひとりと
ひとりで
ふたりだった
ふたつ並んだ足跡を
ひとつひとつ消しながら
終わらない思い出話を
続けていると
思い出せることも
思い出せないことも
あったことも
なかったことも
すべてが
ほんとうのことになっていく
そんな幸せがあってもいいと
ふたり
いまさら気がついて
すこし悲しくなって
また
ふたり
小さく笑う
ほんとうのこと
みんな
うそならよかったのに
歩き疲れてたどりついた
小さな浜辺には
いつか忘れた
きみとぼくがいて
黒い海に敷き詰められた
いちめんのひかりの
眩しさに目をそらす
あなたの瞳にも
海があって
空があって
足跡のない
ふたりがいる
さよなら
きみはあなたに
ぼくはわたしに
さよなら
ふたり
ここで出会って
もう
ここから
どこへもいけない
だれもしらない
六月の日に
だれもいなくなった
ただそれだけで
頬を濡らすひとしずくの
涙が滲んで溢れそうになる
おきざりのままの
きみとぼくが
いつかのように微笑んでいる