内がわと外がわ
たちばなまこと

あかちゃんとぬいぐるみが
丸い背中を並べて テレビを観ている写真
あなたのページに
詩と共に貼られている
今だってあざやかに

「どうしてだい?
 どうして、あなたが。」

そんなふうにときどきは思う

冷え切ったあなたの部屋から
古いブロックを引っ張り出す
子どもは「パパの部屋に、ブロック、い〜っぱい、あったねぇ。」と
言う
言い慣れていないのに
上手に「パパ」と
言う



2階の雨戸が乾いた音で
かしがったり戻ったり
東京に来てから
風が吹くと春が近いと
思うようになった
私が育った北国の2月は
雪原が冴え渡り
春への望みを内がわに熱くたぎらせ
外がわでは氷雪に厚く閉ざされているころ

思い出すのは
寒気が最後の力で踊り狂う吹雪の真夜中の
詩と
詩のコミュニティーサイトと
除雪車が連続でたてる鈴のように愛らしいタイヤチェーンの音と
それに対する私のコメントと
まだ見ぬ仲間たちのコメントと
ひとりの部屋と
小さくなった熱、余韻、残り香
好きだった桃色の嵐
鈴の音が過ぎ去った後の

それはたしかに
熱く
生きていた

今夜は雨の予報
それは春の予報ですか
少しあたたかいであろう雨を
空を仰ぎ
すべて受け入れる心構えは出来ている
何かよ
私からふたたび生まれなさい

そんなふうにときどきは思い出して
手の甲の涙を舐めてみてもいいと
信じたい
私がもし ずっとひとりでも
母として
何かが生まれつづける子宮を
内がわにも外がわにも持ちつづけるために
守るために
不器用に
ひらめくままに 詩を描く

ぬるま湯の 夕暮れどきの お迎えに 向かう川沿いわらべうたをうたう
内がわは やわらかいのに 外がわだけは
つよいふり


自由詩 内がわと外がわ Copyright たちばなまこと 2010-02-10 09:16:05
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