もずく酢
たもつ

 
 
もずく酢しかない部屋できみは
なくならないもずく酢を
ただひたすら食べ続けている

そんなきみの背中を掻いてあげたいのに
きみには掻くべき背中がない
それよりも前に
ぼくは夕べ深爪をしすぎて
生温かな指先の痛みで
撫でることしかできないのだけれど

きみがもずく酢を食べながら
懐かしそうに故郷の話をしているとなり
ぼくは二人で行くための正確な地図を描く
でも紙も鉛筆もないから
いつまでたってもたどり着かない

あなたも食べていいのよ、と
きみは勧めてくれる
なくならないものを食べると
いつも酸っぱくて悲しい
でもぼくらはただの文字でしかないから
消しゴムで簡単に消えてしまう
 
 


自由詩 もずく酢 Copyright たもつ 2010-02-08 21:24:11
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